羽田を発ってから、2時間。
降機まもなく、
「ようきんしゃったね」の文字に迎えられる。
忠之助商店、
いよいよ九州へ来たとよ~!
やや不安になるぐらい山深い道を走り、
深い緑の山あいにたたずむ小さな里にたどり着く。
登り窯の煙突から立ち上る煙と、
せせらぎの音に時折響くギギギ…ドスンという重低音に迎えられ、
小鹿田(おんた)の里に着いたのだと実感する。
この景観は「小鹿田焼の里」として、
国から重要文化的景観に指定されている。
先ほどの重く響く音は陶土を砕く「唐臼(からうす)」の音。
せせらぎの水を赤松で作られた大きな杵で受け、
自然の動力でゆっくりゆっくり土を砕く。
昔から何も変わらないこの音も、
「残したい日本の音風景百選」に選ばれている。
歩けば20分もかからないぐらいで
端から端まで行けてしまう小さな山里。
この集落は、「皿山」と呼ばれる。
皿山とは、
陶磁器を生産する場所を表す九州地方独特の言葉。
町から遠く離れた陶の里の風情を、今に感じさせる。
すがすがしいぐらいの、ニッポンの原風景…。
小鹿田には窯元は10軒。
やきものづくりの技術は一子相伝。
地元で取れる陶土を使い、ろくろは窯元1軒につき2台まで。
動力は使わず、
自分の足で蹴って回す蹴ろくろに、焼くのはすべて薪で焚く登り窯。
近代工業とはかけ離れた昔ながらのやり方をずっと守り、
技術と資源を守ってきた。
これは飛び鉋(とびかんな)。
ろくろで回しながら、鉋で目を等間隔に打っていく。
製品はどれも素朴な風合いだが、手作りならではの味わいが濃くにじむ。
昼食は、里にただ一軒だけの食堂
「山のそば茶屋」で手打ちそばをいただく。
せせらぎと唐臼の音とセミの声を聞きながらいただく食事の風情の良さは、
ちょっとほかでは味わえない。
続いては、
その小鹿田に焼物の技術を伝えたといわれる
小石原(こいしわら)へ向かう。
こちらは350年続くやきものの里。
昭和50年に、
陶磁器では日本最初に伝統的工芸品に認定された小石原焼は、
今でも東峰村一帯に50件余りの窯元が点在する。
小鹿田に比べ、
電動ろくろやガス窯の導入などいくぶん近代化されてはいるが、
飛び鉋、刷毛目、櫛目などの伝統技法は小鹿田と同様。
ひとつひとつ手作りで作られている。
ある窯元に立ち寄る。
飛び鉋をはじめとした
伝統技術を活かした器はもちろんすばらしい出来栄えだが、
器の形や釉薬、焼き方など、新たなやきものに挑戦している姿に感じ入る。
後を継ぐため会社勤めを辞めて間もない20代半ばの次期ご当主も、
新たな感性でやきものへの思いを熱っぽく語る。
いい出会いに感謝。
窯元はどこも小規模ながら独立しているうえに、
どこの窯元でもきれいなショールームが用意されている。
うかがう先々で職人さん自らが応対し、
お茶まで淹れてくださるのには感激しきり。
あたたかな作品のもとには
あたたかな人柄が反映されているのだなあと得心する。
今回の旅の基地、嬉野温泉へと急ぐ。
柔らかなお湯は、
古来美肌の湯として名高い名湯を堪能。
し・あ・わ・せ・・・